【日本よ】石原慎太郎 西欧人のずるさ

最近の国際問題の中でEUがかねがね禁輸の体制をとっていた中国への武器の輸出の解
禁を考え出したというニュースほど不愉快なものはない。EUといってもフランスに始まって
限られたいくつかの国々だろうが、彼等が日頃説く人道主義だの平和の理念と一体どこでど
う整合するのか、矛盾極まりない話だ。(中略)

ヨーロッパを主な舞台とした冷戦は終結したが、すでに核まで保有してしまったテロ国家の
北朝鮮とそれを支持する中国の存在はこの東アジアにおいて、実は冷戦時代以上の緊張を
我々にもたらしている。この段にいたって、その元凶である中国にEUはヨーロッパの意思と
して武器の禁輸を解除しようという。これは世界が時間的空間的に狭小になった今日の時点
でもはや認識不足などということではすまされぬ、卑しさという以外にない。(中略)

従来ソヴィエトから兵器の供給を仰いでいた中国には、現在保有している武器の能力を上回
る性能の兵器を自ら開発する能力はありはしない。EUはそれを見こんで新型の兵器の売り
こみを計るつもりなのだろうが、それは自らが日頃しきりに唱えている理念への背信でしかあ
るまい。それを敢えて行おうという国があるとするなら、EU全体の威信にかけて、日本やアメ
リカが非難する前にEU自身の中で討論されるべきだろう。それが行われずにことが進めら
れるなら、世界はEUそのものの存在に強い疑念を持たざるを得ない。

まして中国は最近、台湾の独立を阻止するための軍事力の行使を認める「反国家分裂法」
を作成し憚(はばか)らない。こうした政治的独善が軍事力を背景に展開されることの恐ろし
さを、ヨーロッパはかつてヒットラーが同じ民族故にと強行したオーストリアの併合の歴史を
踏まえて熟知しているはずではないか。(中略)

これでもしEUがヨーロッパからの対中国武器輸出を解禁し、間接的に日本という国を見限る
というなら、日本は本気で独自の強力な兵器の開発を考えざるを得ないことにもなりそうだ。
そしてその結果保有に至る最新鋭の兵器は当然、一番有効な安全保障の手段の一つとして
輸出されるべきだろう。かつて三木武夫という徒(いたずら)に観念的で、それ故にか妙にも
てはやされた総理大臣が、国家の安全を棄損しかねぬ愚挙としていかなる国へも武器の輸
出を自ら禁止してしまったが、そうした迷妄もこれを機会に払拭されることになるだろう。

ソース:産経新聞
http://www.sankei.co.jp/news/morning/04iti003.htm